GOD FATHER


 生まれてはじめて父と連れションをする。
 なにげなく父を見、愕然として自分を見て、なにか謂われなき理不尽な劣等感に打ちのめされる。齢三十を越えてなお父を越えることは出来ないというのか。
 いや、お互いすでに分別もついた大人である。ここは父と息子というしがらみなど取っ払った一個の男と男として話をつけたい。
 還暦もとうに過ぎ、あとは緩慢にしぼんでいくだけの男と、バイト暮らしとはいえ働き盛り三十代前半の固く引き締まった男の勝負である。勝敗の差は明らか。否、すでに勝負はついているといっても過言ではあるまい。まさしく勝ったも同然と言っていい。そもそも勝負にならない。そんなものでおれに勝ったつもりか。なに様のつもりだ! 出直してこい!!
 胸の内で怒号しているうち、どういうわけかおのれが叱咤されているような気分になり、ますますうなだれてくる。心なしか勢いも薄れてきたようだ。
 そういえば、道具というものは使わなければなまってくるものであった。もう長いこと手入れもしていない気がする。職場の友人からは、そんだけ使ってないとほぼ未使用だよねと言われたことがある。おお、なんということだ。このままおまえはアウトレット店頭展示品として終わってしまうのか。
 ひとりさらけ出したまま懊悩していると、とっくのとうに用を足し終わって手を洗っている父から声をかけられた。歩み去っていく小柄な父の背中がたいそう広く感じられた。
 父よ、あなたはデカかった。