吾、死にたもうことなかれ。


 梅雨である。うっとうしい季節の到来である。
 しかし、梅雨が過ぎ去れば本格的な夏の到来となる。またモテない夏がはじまるのだ。とめどもなく汗をしたたらせながら、己の膝を抱きしめてただひたすらに堪え忍ばねばならない鬱屈を思うと、体中が爆発しそうだ。
 そして夏が終われば秋が来る。ただでさえメランコリックな季節だというのに、モテなかった夏の記憶が脳髄を逆流しつつ噴出し、体中が爆発しそうだ。
 冬ってのは、いったいどうしてあんなにカップル向けのイベントにあふれているんだろうか。クリスマスだの初詣だのバレンタインだのと、幸せそうにすり寄っているアベックの姿を想像すると、怒りで体中が爆発しそうだ。
 問題は春である。あの陽気は危険だ。はじめからなにも期待しなければ、反省も後悔もせずにすむものを、あの陽気が人の心を浮き立たらせる。結果として訪れる自己嫌悪で体中が爆発しそうだ。
 もうなにもかもイヤだとわめいたとたんに雷が落ちた。そこらじゅうが帯電して産毛がピリピリと逆立っている。
 本当に爆発したのかと惑う梅雨の夜であった。