そんなわけで、買っちゃいました。

 その店に入ってそれのまえに立ったとき、後悔とも諦観ともつかない寂しさに駆られてしまったのである。いままでの人生で、いいことなんかなにひとつなかった。
 小学生のときには仲のよかった女の子とじゃれあっていたとき誤っておなかにパンチを入れてしまい、その後二度と口をきいてもらえなかった。転校した先の小学校ではなぜかクラスの女子みんなから嫌われ、昼休み校庭に呼び出されたあげく砂場に埋められたことがある。二度目に転校した学校では、とうとう最後まで名前を覚えてもらえなかった。
 中学校では初恋の相手の親にまでなぜか嫌われ、クラスでいじめられるまえにPTAからいじめられた。高校に入学したときは好きだった娘の気を引こうと、その娘がよく観ていると聞いたアニメを一生懸命観て話を合わせていただけなのに、いつのまにか学年中からオタクだとレッテルを貼られ、とうとう三年間「マーマレードボーイ」と呼ばれ続けた。本当は「チェリーボーイ」だよと内心叫び続けたが、恥ずかしくて言えたもんじゃなかった。
 大学に進学してはじめて彼女ができた。週末に告白したその日のうちに、高校三年間の思い出がつまったエロ本をすべて捨てた。休みを挟んで週明けに登校したとき、ふられた。高校三年間の思い出はゴミ収集車が持ち去った。
 まがりなくも社会人の仲間入りをしたとき、女性と話すにはお金を払う必要があると知った。一年に二度も三度も職を変えるような人間を相手にしてくれる女性は当然のようにいなかった。
 走馬燈のように浮きあがっては彼方へ消えていく記憶のまにまに、去来する思いは虚しさ。胸に残る淡い苦さを噛みしめ、薄っぺらい人生を憐れむ。だが、自己憐憫で未来を歩んでいくことはできない。たとえどんなに薄っぺらい人生だろうと、意味のない人生はない。生まれてきたことに意味などなくとも、すべての人生に価値はある。ならばその薄っぺらさを強みとして生かせばいいではないか。
 そう、いま目のまえにある、このプレイステーション2のように。