21世紀の老人力

 朝の出勤時、駅で改札機に並んでいると、それまでスムーズにくぐっていた列が急に止まる。駅から出るときならば、乗り越しだのお取り扱い不明の切符だのいろいろと止まる理由はあるが、乗るときに止まるのはめずらしい。のぞきこんでみると、若い女性が手に持ったsuicaを一生懸命切符投入口に差しこんでいた。必死である。どうして入らないんだろうと、見ているこっちまでちょっとイライラしていたら、女性のうしろにいたご老人が辛抱ならんといった調子で怒鳴った。
「あんた、タッチするんだよっ、タッチ!」
 一日におよそ三万六千人が利用するという亀有駅の朝のラッシュが、一瞬にして静まりかえるほどの気迫であった。
 女性が恐縮して改札をくぐったあと、ご老人はいともしなやかにタッチしていった。