泰山鳴動して鼠一匹。

 昼すぎより、たけしのお供をして秋葉詣。なんでも、先日購入した任天堂の新しいゲーム機wiiのゲームを物色しにいくのだとか。最近のたけしは昔のゲーム熱が再発したかのように、次から次へとテレビゲームを買い漁っている。こじらせなければいいが……などと物知り顔で案じてはみたものの、ひるがえって我が身を考えると両者たいして違いはない。ようは好きなことを好きなようにやればいいのだ。他人にとやかく言われる筋合いではない。ほっといてくれ! もう三十路なんだし。
 せっかくだから私もなにか購入しようと思ってついてきたのだが、あいにくとゲームの方は目下進行中のものがあり、クリア後の予定も決定済み。さりとて年の瀬も近いし、今年最後にこれっていうお買い物もしたい気分。駅降りてすぐの巨大電化製品量販店でさっさと買い物を済ませてほくほく顔のたけしを尻目に、うーんどうしようかと悩んでいると、目についたのはパソコン関連製品のフロア。そういや、以前から新しいマウスがほしいと考えていたことに思い当たる。
 いま使用しているマウスは三年ほどまえに購入したエレコム製の光学式有線マウスなのだが、シンプルな半球形の形状と独特のガチガチしたホイール動作などは気にいっていたものの、光学式に特有のカーソル飛び、そしてなにより動かすたびに手元にわずらわしくまといつくコードにうんざりしていたのである。
 そんな折りにたけしがこんなものを買ったと取り出しのがレーザーマウスとかいう代物。くそ、またたけしかよ。目新しくて便利そうなニューアイテムはいつもたけしから到来してくる。胸の奥底深くから浮かびあがってきたそんな怨嗟の呟きを無視して、それはいったいなんなのかしらと訊ねると、同じ光学式マウスでも従来のものは赤外線を用いていたためにマウス接地面の解像度、及びスキャンの回数が少なく、それが原因でカーソルがいきなりあさっての方向に飛んでいってしまうような不具合が発生したのである。しかし、新製品のこのマウスは、高解像度レーザーを用いて毎秒6000回接地面をスキャンするのでカーソル飛びなどという原始的エラーは存在する余地もないのだ。まさしくこれぞ新時代。レーザーマウスを自由自在に使いこなしてこそ21世紀のプログラマなんである。おやしんごくん、キミはまだ赤外線かい? そんなものはいまの世の中こたつだけにしてくれたまえ、ヴワハハハハハハッ───。
 とまあ、記憶によればたしかこんな会話が交わされたはずである。あれ以来、使用している光学式(赤外線)マウスがカーソル飛びを起こすたびに、怒り狂った私の眼から灼熱したレーザービームが乱れ飛ぶのであった。
 そして今日、積年の恨みを、幾層にも塗りこめられた怒りを、顧みることのなかった悲しみを晴らすため、ついに私は新しいマウスを購入することを決断したのである。
 さっそく、となりで買ったばかりのゲームソフトを撫でまわしているたけしに相談してみる。
しんご──ねえねえ、マウスほしいんだけど、どれがいいかな?
たけし──これがいいんじゃない。
 そう言って、たけしが目も向けずに指さした先にあったものは、かごのなかに雑然と放り込まれた一個98円のボール式マウスだった。


 そんなわけで、来週たけし邸に突入してwiiリモコンブルース・リーばりに振りまわしてやろうと決意しつつ、購入したマウスがこちら。なにげにマイクロソフト純正の周辺機器を買うのははじめてだったりします。レーザー、ワイヤレスの前提条件を満たしつつ、選択の第一動機になったのはbluetooth対応製品だからってことはここだけの話です。だって、wiiPS3でも使われてるんだぜ。いかにも次世代って感じじゃん。ついでに同じbluetooth対応のキーボードも探してみたんですが、良さそうなものがなかったんで今回は断念。まあ、いまのFILCO製かちかちキーボードがかなり気に入っているんで、無理にかえる必要はないんですが、やっぱりコードがうっとうしい。なにより、せっかくのbluetoothだし。
 帰宅したのち、さっそくマウスを使ってみましたが、レーザーで机に穴があくということもなく、非常に快適。以前のマウスに比べてホイールのスクロールが軽すぎる感じがしますが、設定で遅くすればちょうどいい感じ。そしてbluetooth。2.4GHzの電磁波に包まれて、全身の凝りがほぐれます。超音波風呂みたいなものです。
 カーソル飛び? そんな前時代的なエラーは起きません。