カバーはずしたとこに描いてあるのって、『11人いる!』だよね。

 とりあげるにはいささか時期をはずしてしまったが、やはり長いことファンを続けてきた身として紹介しておきたい。
 二宮ひかるが帰ってきた。前作、『犬姫様』(講談社アフタヌーンKC)から数えて、じつに丸三年ぶりの単行本出版である。正確にいえば、このあいだにコンビニコミックで旧作の再編集版が刊行されていたとはいえ、新作の発表はもうないだろうとあきらめていただけに、今回の復帰は嬉しい。はっきりいって感激である。あまりに嬉しかったので、いたるところで二宮ひかる新刊出たぞと騒いでいたら、おまえこーゆー漫画読むやつだったのか、だの、イメージくずれるー、だのとなぜだかひんしゅくをかってしまった。黙れっ。おれは癒されたいんだ! 永遠の思春期なんだ!!
 冗談はさておいて、少年画報社から発売となった『おもいで』である。あの『犬姫様』の迷走っぷりとその後の沈黙を考えるに、描けなくなったんだろうなという心情は想像できる。もともと作者本人の実体験が色濃い作風上、『ハネムーン サラダ』において大人の三角関係をファンタジーにまで昇華させてしまった以上、リアリティある大人の恋愛を再度素材として用いることは、創作という立場からすると後退ととられかねない。それゆえに『犬姫様』は描かれ、また方法論の模索が、そのまま作品自体の混乱へとつながったのではないか。
 それでは、三年の時を経て発表された今作はどうか。単行本タイトルに小さく「二宮ひかる短編集」と掲げられているように、複数回続く中編が二本、一話完結の読み切り作品が三本の計五作が収められているが、共通する設定があるわけでもなく、またそれぞれの傾向もバラバラで、よくいえばバラエティに富んだ、悪くいえばとりとめのない作品集である。正直、完成度もあまり高いとはいえず、期待したわりに肩すかし感があるのは否めない。
 急ぎつけくわえるが、決してつまらないというわけではないのだ。尺の短さからくるあっけなさが各作品の価値を落としてしまっているのである。個人的にいえば、表題作「おもいで」にその思いが強い。作者が息切れを起こしてむりやり終わらせたような幕切れは、こんだけひっぱっておいてまたインセスト・タブーネタかよと脱力してしまった。そっち方面の伏線はあくまで匂わせるにとどめておいて、緊張感を持続したままあと三、四回分描いてくれれば、おそろしくリアリティのあるセカイ系コミックが誕生したかもしれないのに。
 もう一作、注目したいのが収録作中もっとも短い「はかないいちにち」である。とりたててどうということもない、さらにいえば唯一ベッドシーンもない掌篇なのだが、扱いがたい先輩女子生徒と振りまわされる後輩男子生徒の描写がとても心地よく、ふたりのその後の関係が非常に気になる。『ナイーブ』や『ハネムーン サラダ』でも、同様に扱いがたい女と振りまわされる男を描いていたが、あちらは主人公の年齢が社会人に設定されていたためにシリアスな展開になりがちだったのに比べ、こちらは学生風景ということもあってカラリとした陽気さにあふれている。意外と、作者の新しい展開はこういった話に突破口が隠されていると思うのだが、いかがなもんだろう。
 いずれにせよ、休眠明けの腕ならしと思えば納得もいく。いまはただ、作者の活動再開を喜びたい。願わくば、未開の大地の拓けんことを。